色即是空・・・・・・・この世の万物、全ての存在は架空の姿であり仮の姿である、執着することなかれ。
山路(やまみち)を登りながら、こう考えた。
智(ち)に働けば角が立つ。情に棹(さお)させば流される。意地を通せば窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。
どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。
人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない…
住みにくき世から、住みにくき煩(わずら)いを引き抜いて、ありがたい世界を真のあたりに写すのが詩である、画である。あるいは
音楽と彫刻である。
(夏目漱石 草枕 冒頭より)
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